「芸術」とは何だろうという問いが、時々よみがえる。
それが明治時代の西欧文化移入期に、artに対応してつくられた造語だとしても、現実には、それ以前の書画・芸能の世界を踏まえて理解するのが、わたしたち日本人の感覚だろう。
例を挙げれば、書は当初は芸術の分野に入れられていなかったのが、その後の運動で組み入れられるようになった。しかし今でもその扱いは曖昧だ。だが少し考えてみれば、書を外しての日本絵画史はありえない。
その昔は芸術は武術を意味した事もある。artの概念からは外れるかもしれないが、我々の感覚にそれを首肯する物があるのは、日本という国の文化のありようから来るのだろう。剣術家の宮本武蔵が描いた水墨画が、国宝に指定されているのは、必然的な事であるのだ。
そうした感覚を持っていると、外国のさまざまなartを楽しみ影響を受けたとしても、芸術を簡単に西欧のart概念に合わせようという気にはなれない。むしろ、art=芸術という立前をはずして、書画・歌舞音曲・芸能・武術にまで及ぶ、こうした範囲の事ごとに共通する何かを、芸術と考えるのが妥当なような気がする。